プロローグ [ノベル]
吉井さくらの20回目のスタジアムライブが幕を開けた。
隣に来るはずのボタン雪さんはまだ来ない。
きっとくるよ。
10月うさぎは強く信じて待つことにした。
信じることの大切さは彼女が一番よくわかっていた。
出逢いは風にのって [ノベル]
キャンパスに桜が咲き乱れ、少し強い風が吹いていました。
私は地元福岡にある青雲大学に入学した、高井亜紀18歳です。
こんなに風が強いのならスカートなんてはいてこなければよかった。
とはいえ、着替えに帰る時間もなく、教科書の販売会場に急ぐしかありませんでした。
急に吹いた風で、教科書購入用紙が飛ばされてしまい、追いかけた先ではサークルの勧誘活動が凌ぎを削っていました。各サークルごとに机と椅子が並べられ、私と同じ新入生が何人も話を聞いていました。
私はサークルに入るつもりなど毛頭なかったのですが、運悪く用紙は演劇部の机の上に舞い降りました。
「すみませぇん、風で飛ばされちゃって。」
得意のスマイルでこの場を切り抜けようとしたのですが、一瞬早く男の人が用紙を拾い上げ、
「ふむふむ、これと・・・これと、ああ、この授業はやめたほうがいいね。
これは楽勝だからぜひとった方がいい。」
と言いながら教科書を目の前に何冊か置いたのです。
(おっ、今から買いに行く本だ!!!)
そう思うと足がとまり、ついつい椅子に座っていました。
それに、なんだか優しそうな人じゃない。きっと悪いようにはしないって。
一体サークルにどんな先入観(うらみ)があるのかわかりませんが、とにかく警戒心バリバリの目で先輩たちを見ていたことだけは事実です。後で結衣さんから聞きました。
背のすらっとした、まるで女優のような人がこう言ったんです。
「ラッキーだね。教科書は、早いもん勝ちだよ。」
私、ラッキーという言葉にすんごく敏感で、もう勝ち逃げしちゃいますと言わんばかりに目をきらきらさせてお姉さまを見ちゃいました。奨学金とアルバイトでなんとか4年間頑張っていこう、今日のお昼はレディースランチをあきらめておにぎり2個にして・・・などと考えていた私。
「お願いします。」
って言っちゃいました。何だかわからないうちに名前書かされて、お昼もごちそうになりーの、やったこともない演劇部に入っちゃって。いったいこの先どーなんの!?どがんすっとね??
あの時の男の人、3回生で部長の嶋本祐二さんというとです。結構好みなもんで、入部してよかった、なんて思っとったとです。でも、せっかくのチャンスで失敗してしまいました。
新歓コンパなるものが開催されて、なつかしいフィーリング・カップル5対5まであったとです。新入部員は男子2人、女子3人で、残りは上級生。男子側には嶋本さんもおんしゃったとですが、まちがって和人さんの番号ば書いてしもうて・・・。これまた和人さんも私の番号ば書かしたけんが、カップル誕生、みたいになったとですよ。
幸い、嶋本さんはカップルになれず寂しそうにしてました。私はその場だけ和人さんとおしゃべりして、その後は適当にごまかしてます。ちょっとかわいそうかな?とも思ったけど、和人さんもそんなにしつこくないし、しょせんゲームですよ、ゲーム。ハッハッハ~。
それはさておき、肝心の演劇はと言いますと、私、まったくの素人で演劇のえの字も知りません。まあせいぜい森の木の格好してちょい役やるくらいでしょうとタカをくくってました。
ところが
どっこいだったんです。
3回生にとっては秋の公演で引退となるのですが、嶋本さんの脚本が選ばれ、なんと主役に抜擢されちゃいました~~~
はあ?主役?いったいどんな役なの?
脚本を目を丸くして読んだのですが、どうやら歌手の役のようです。吉井さくらの恋物語だそうで、
って、え!?吉井さくらといえばMy Destinyですよね。歌ったことないよ。カラオケは大好きだけど難しくって歌えないもん。その役をやるってえのかい。ちょっと待ってよ、さくら熱唱とか書いてある・・・
トホホ~
すごいプレッシャーなのだ。
隠れてカラオケに行かねば。その前にCD聞かなきゃ。
そう思ってると、嶋本さんがカバンからCDを取り出して、
「貸してあげるから、この最後の曲を歌えるようになってね。」
だって。
最後の曲は『きみがすき』、よかったマイデスぢゃなくて。
いやいやいや、安心してる場合じゃない。
たとえ、いや、百歩譲って歌えたとしても、
主役!!
主役なんですよ。この大根役者が(と言われるにきまっている)主役なんてはれるわきゃないでしょ。
「わたし(むりです)」
と言おうとした瞬間、結衣さんの声。
「やったね亜紀!歌うまいもんなあ。」
そして、おめでとうと拍手に引導を渡され、泣く泣く花の主役になってしもたとです。
どうなることやら・・・。
そうだ、これは嶋本さんとなかよくなるチャンス。
それしか前に進む方法はなかよね。よし、がんばろう。やるっきゃない。
その日は眠れない
かと思いましたが、アルバム聞きながらぐっすり眠れました。






